物価の違いってのは、それまであまり気にした事はございませんでした。小さい頃、東北出身のお袋さんが、「東京は田舎と違って物価が高い」と、よく零しておりました。まだ幼かった私は、そんなお袋さんの言葉も余り気にせずに、軽く聞き流しておりました。
結婚して暮らした町は実家からもすぐ近くの隣町なんですが、その町で二年間暮らしてました。それからまた実家の近くへ引っ越したんです。そこで少しばかり問題が出てきたんです。ある日、女房殿がこんな事を言い出しました。「何か、野菜が高い」と。
いやね、私は全く分かりません。毎日の食材の買い物はいつも女房殿のお仕事でしたから。「隣の町でそんなに値段が変わるものかな」半信半疑でした。それなら試しに見に行こうという事になりまして、日曜日に行ってみたんです。
賑やかな商店街に入り、さっそく八百屋さんの店先に積まれてる野菜の値段を見てみた。ビックリです。どれもこれも安い。いつも買ってる物から比べても、明らかに半分以下の価格でございます。これはいったいどういう訳なのでしょうか。
僅か一駅程度の距離で、こうも値段が違うなんて、ちょっと納得いきません。私があれこれ考えてるうちに、女房殿は籠一杯に野菜を買い込んでました。「今夜はポトフよ」なんて言って。私も野菜は好きですから気分が良い。野菜を買ってこんなにも嬉しくなった事はございません。
「今度から野菜はここで買うわ」と、女房殿。しかし、自転車を持たない女房殿が、どうやってここまで来るんだろう。歩くにはチト遠いし、電車を使えば意味がない。上手くいきませんね、人生って。